「じゃあ、明日ね〜奈央っ」
「うん、ばいばいっ」
どこにでもいる平凡な女子高生のあたし、今井奈央。
学校からの帰り道、一緒帰っていた友達に手を振って、家に向かって歩きだす。
快晴の空を見上げながら。
「ふんふふーん♪」
なんて陽気な鼻歌を歌いながら、今日の夜ご飯のメニューを考えていた。
それから十分。
あたしの住んでいるマンションにたどり着く。
オートロックを解除して、エレベーターで七階まで上がる。
鍵を開けて入ったのは、白系でまとめられた生活感のある部屋。
「ただいまー」
誰もいないのに、あたしはそうつぶやいてローファーを脱いだ。
制服から部屋着に着替えて、もう夕方ということで夕ご飯作りに取りかかる。
「たまねぎ、にんじん、じゃがいも………」
冷蔵庫に入ってるのはそれぐらいかな?
よしっ、シチューにしよう。
野菜を洗い始めたとき、付けていたテレビにワックスのCMが入った。
「あっ!!」
それをみた瞬間、あたしは野菜を洗っていた手を止めてテレビの前にかじりつく。
「きゃあっ、かっこいいなぁ……」
そのCMにでてるのは、今大人気のイケメン俳優。
『藍川日向』
そのルックスと演技力から、ドラマに雑誌に引っ張りだこで。
あたしのクラスでも、相当人気がある。
もちろん、あたしも大好き。
だけど、それは芸能人としてではなく。
ちがう意味で……どういう意味かって聞かれると………。
ガチャッ。
ちょうどCMが終わった瞬間、玄関のドアが開く音が聞こえた。
「奈央っ?たっだいまーっ」
そう言って玄関に立っているのは、今まさにCMに出ていたあたしの大好きな人………。
そう、藍川日向っていう。
世界一大好きなあたしの旦那様なんです!!
「日向おかえり〜っ!!」
あたしは真っ先に日向にむかって抱きついた。
「うおっ、よしよし♪そんな喜ぶなよ(笑)」
「だって、今日帰ってくるのいつもより早いね?」
「お、今日はドラマの撮影すぐ終わったからな〜」
おっきくて、あったかい手であたしの頭を優しく撫でる。
ここにいるのは、正真正銘。
あの人気俳優の藍川日向。
2年前から交際を始めて、晴れて先月に!!
日向からプロポーズされて、ちゃんと籍もいれた新婚なんです///
「こら、いつまで抱きついてるの(笑)」
「だって、嬉んだもん」
「後でいくらでもかまってあげっから♪俺着替えてくるわ」
「うんっ」
そう言った日向は、笑ってあたしのおでこにちゅっと唇をくっつけて寝室にはいっていった。うぅ……、キュンじに(笑)
もちろん、大人気のイケメン俳優が結婚なんて………。
ファンも減っちゃうし、日向の事務所には猛反対された。
でも、どうしても結婚したくて、それで事務所から出された条件。
『結婚したことは、絶対秘密』
ということだった。
あたしと結婚したことで日向の人気が落ちるなんて、嫌だったあたしは、その条件を受け入れた。
日向は、例えファンが減ったとしても、あたしたちの関係を秘密にするなんて、嫌だっていったけど。
それが結婚するための条件だということで、承諾した。
それこそ、人目のある場所で堂々とデートなんてできないけど………。
あたしは、日向のそばにいれるだけで、お互いの気持ちが通じ合ってるだけで、幸せだから。
ワガママなんて言わない。
あたしも、十六歳で結婚なんてパパに最初は反対された。
でも、実は日向の大ファンなママがうまいことフォローいれてくれて………。
パパは、高校をちゃんと卒業するという条件つきであたしたちの結婚を認めてくれた。
頑固なパパも、ママが勧めた日向出演のドラマを見て、今ではすっかり日向ファンになってしまったみたい。
まぁ、あたしたち一家全員が日向ファンってこと(笑)。
「あ、今日シチュー?」
「わっ! ビックリしたぁ」
切った野菜をいれたおなべをかき混ぜていると、後ろから着替え終わった日向がくっついてきた。
「俺、奈央が作ったシチュー大好き〜」
なんて、普段のテレビでは出さないような甘えた声を出す。
日向は、顔はすごいかっこいいのに、素顔はすごく茶目っ気があって。
あたしと2人きりの時は、すごく甘えてくる。
クールな表情も、かわいい表情もできてそのギャップにやられたファンも多い。
「あ、お風呂お湯溜めるの忘れてた。日向いれてきて?」
「りょーかい♪」
ちなみに、ここは元は日向のマンション。
結婚するってことで、あたしは日向んちに同居している。