「奈ー央ちゃん?どこいくのかな?」




「ひゃっ……!」





寝室に入った途端、いきなり後ろから日向に抱きつかれた。





……見つかっちゃった………。




「あ、いい香り」






「……っ……日向///」




あたしの首筋に顔をうずめて、しゃべる日向。





日向の吐息がくすぐったくて……。





「………奈央、愛してる」





なんて言われちゃったら、抵抗できないよ……。





寝室に入って、ベットの上に寝かされる。




「………いい?」





っていじわるな目で聞かれて……。






「……ダメなんて、言えるわけないじゃん………っ」





顔を真っ赤にしながらそう言ったら、日向はあたしを押し倒した。













最初に、チュッと軽く触れるだけのキスをして。




真っ直ぐな瞳であたしを見つめる。





「もっとほしい?」





っていじわるに聞かれて。




「………ほしい……///」




って言ったら、




「すげー可愛い」





今度は、深くて甘いキスを落とす。





「………っん」




何度も、何度も角度を変えながら、舌がはいってきて。





あたしは、日向のされるがままになる。





「奈央、エロいね……」





そっと唇を離した日向は、親指であたしの口に触れた。





「日向のほうがエロいもん……っ」





「じゃあ、どっちがエロいか確かめてみる?」





「………っ……///」





結局、日向には勝てないみたい………。














「も、もうダメ………」





「本気じゃないからね、あれ」





「ふぇっ……!?」





あれが本気じゃないなんて、あたしいつか死んじゃうよ……。




午前一時過ぎ、ベットの上で日向に腕枕されてるあたしは、もうぐったり。





「くくっ、ほんと可愛いなぁ」




「………///」




そんなこと言われたら、また顔が赤くなってきちゃうじゃん。





火照りはじめた顔を隠すように、布団にもぐった。




「奈ー央……?」




背を向けているあたしに、後ろから抱きついて、腕を回す日向。





その何気ない仕草と、優しい声にキュンってしちゃって……。



あたしの鎖骨あたりに回されていた日向の腕を、ぎゅっと握った。





「奈央、信じててくれてありがと」





あたしの耳元で日向は優しく囁く。














「………バカ日向、寂しかったんだからねっ」





素直になれないあたしは、少しすねた口調で日向にそう言った。





寂しかったのは、本当だもん……。





「……バカは奈央だろ♪」




あたしの言葉も余裕でかわす日向。





「なっ……///」




勢いで振り返ると、日向と鼻と鼻がくっついてしまいそうな距離で。




何も言わず、自然に唇が重なった。





「………っ……ん」




だんだん息が苦しくなって、唇を離すと、日向が口を開く。





「俺のこと信じてくれたご褒美あげよっか」





と笑顔で微笑んだ。





「ご褒美……?」





「うん、奈央の欲しいものひとつだけ買ってあげる」




あたしがほしいもの……?




うーん……バックに、服に、新しいパンプスも欲しいはずなんだけど……。





なんか、いまいちピンとこない。





やっぱり、今一番ほしいものは………。

















「………日向?」





「ん?」










「……これからもあたしのそばにいて?」









「どした? 急に」




「ううん……」





首を振るあたしを見て、優しい目をした日向……。





「俺はずっと奈央のそばにいるよ」






そう言って、あたしのおでこにチュッと口づけた。






これがあたしの今一番欲しいもの。





今は、これで十分だよ。






「おやすみなさい」






「おやすみ……奈央」






久しぶりに日向に抱きしめられて寝た夜に見たのは、とっても甘ーい夢だった。















ようやく夏紀さんのことが解決して、落ち着いた日々が戻って来ようとしていた………はず。





「いいですか? 結果はこういう風に解決はしましたが、次はないんですよ」




「はっ、はい!」




「勝手に夏紀さん本人に話をつけにいくなんて、無謀すぎです。そんなの自分から日向さんとの関係を公認しにいくようなもんじゃないですか」





「まぁまぁ、中津。俺だってもし奈央の立場だった、同じことしたと思うし……」





「日向さんは黙っていて下さい。また丸一日説教されたいのですか?」





「……それは嫌だ」





リビングの真ん中で、二人並んで正座するあたしと日向。




その目の前で仁王立ちして、眉間にシワを寄せるマネージャーの中津さん。





昨日の夏紀さんの件が終わり、今日からまた仕事だと早起きすると、朝早くに鳴ったインターホン。





そこにいたのは、あたしたちに話があるという中津さん。






なんとなく予想していたけど、話というのはやっぱりあたしたちへの説教で……。




結果、今に至る。












「まだ安心はできませんよ。もしこれからでも、夏紀さんがあなたたちの関係をバラすような言動があれば。きっと日向さんの周りをかぎだす連中だっているんですから」





「………」






確かに、夏紀さんは日向との関係を否定してくれたけど……。




中津さんの言う通り、その可能性がないわけではなくて。





「ごめんなさい……」




「俺も、今度からはもう少し気を付けるよ」




二人で一緒に頭を下げると。





「とりあえず日向さんは、下に車とお付きのものを待機させています。時間ですので仕事へ向かって下さい」






「え、中津は? 一緒に行くんじゃねぇの?」





淡々としゃべる中津さんに、日向は立ち上がりながらもたずねる。





「私は、あなたにお話がありますので」





「あ、あたし……?」







そう言ってチラリとあたしを見た中津さんの視線に、一瞬ドキリと胸を跳ねらせた。














「あの……お話って」





少しピリピリモードの中津さんによって、さっさとお仕事へ行かされた日向。





相変わらず正座のままで、中津さんの前にいるあたし。





この状況……息苦しすぎる。






「夏紀さんの件については、あなたに全て非があるというわけではありません」






やっぱり、お説教か……。





そう思いながらも、あたしは再び中津さんの高い身長を見上げる。






「夏紀さんのとった行動も異常なものでしたし、日向にももう少し考えて行動しなければならないところはありました。だから、あなただけを責めるつもりはありません」




「は、はい……」





あれ? やっぱりお説教じゃないのかな。なんて思って少し油断した時。




「しかしです!」




「はっ、はい!」






不意をついて中津さんが声を張った。




「話によると、夏紀さんがあなたと日向さんの関係を確信した原因は、二人で一緒にいるところを見られたからじゃないそうですか」




ギクリッ。




首筋を、冷や汗が流れるのを感じる。





そのことは、中津さんに伝えたら絶対怒られそうなので、日向と一緒に言わないでおこうと決めたはずなのに……。





どうして、彼は知っているんだろう。





そんなあたしの考えを見透かしたように、中津さんは口を開いた。






「ちなみにこのことは南さんにお聞きしました。どうやら日向さんと親しい彼も事情を知ってるようだったので」





しまった。




南さんに口止めしとけば良かったなんて思っていると。





「詳しい内容は日向さんに口止めされていたみたいですけど。菓子折りを持ってお伺いしたら、快く教えてくれましたよ」





「………」






もう、中津さんには全部事情が行き渡ってるみたいだし……。




そう思ったあたしは、あきらめて中津さんのお説教を受け入れることにした。















「私は前から言っていたはずです。あれほど危機感を持てと」





「うぅ……はい」






「その時はなんでもないことでも。誰にも見られてないと思っても。そのたった少しの言動が命取りになってしまうんですよ」





中津さんの低いその声が、あたしの胸にズシンと響く。






「いいですか?あなたのせいで、日向さんの仕事に悪い影響が出てしまっても」





「………嫌です」






「はぁ。あなたが一番そばで日向さんを応援してあげなければいけない立場だっていうのに」





もはや返す言葉もない。確かに、中津さんの言う通りだから。





あたしは、日向の芸能人という仕事をもっと軽く見ていたのかもしれない。





今回みたいに、たった少しの出来事が、とても大きな騒ぎになってしまうことだってあるのに……。






「とにかく、日向さんがあなたを認めても。私は絶対認めませんから」





「……………」





「あなたとの結婚は、日向さんに害をもたらすだけだ」





最後に冷たくそう言った中津さんは「失礼します」と頭を下げると、そのまま部屋を出ていってしまった。