『桜姫は、ちょっと虫の居所が悪いみたいだ』
悪いな、と軽く謝ってくる男はまるで女の兄のようだ。
(恋人、なのか……?)
お互いよくわかっているように見えるからきっと恋人同士なのだろう。
(まぁ、別に良いか)
早く、帰ろうと俺は、ポケットから封筒を取り出し女に差し出した。
『悪かった』
謝罪と共に渡す。
しかし、女は、封筒を見つめながら受けとる気配は見られない。
『………これ何』
『は?……治療費だけど』
あぁ、と女は、納得しながら封筒を受けとる。
『確かに』
『それは、返すけど、入院費はどうすればいい』
数日だったが入院を余儀なくされ、退院当日、既に支払いは済まされた後だった。
それをしたのは間違いなくこの二人だ。