その日の夜、

卓郎から電話があった。


でも、出なかった。


都合のいい女になるかも知れない。


卓郎にそう思われるなんて
一番いやだったから。


卓郎の携帯番号を
着信拒否に設定してみた。


でも、どれだけ
嫌おうと思っても

どれだけ憎んだって

真美は卓郎のことが好きだった。



泣き続けて、泣き疲れて…


朝日が昇るまで泣いていた。


そして自分から蹴りを付けたくて

勇気を出して卓郎に電話した。


「もしもし…グスッ」

鼻をすすりながら電話に出たのは

大人の女の人。


きっと卓郎の母だろう。


「あの、卓郎くんは…」

「最後にあなたの声が聞きたいって卓郎、
携帯から離れなかったのよ…」

どういうことだか全く理解できずに、
真美が黙っていると、

卓郎のお母さんは話し始めた。


卓郎は、重い病気を持っていた。

それに気づかずに、つい最近
風邪で病院に言ったら判明したこと。


末期癌だった。


もう大きな病院でも
どうすることもできない。


それでも卓郎は前を向いて
生きようとした。


生きると決めた。

残りわずかの命でも。


病院から抜け出すこともあった。


考え抜いて、

真美に迷惑をかけないように
別れようと言ったんだと思う。


昨日

最後の日。


卓郎の容態が急変した。

最後かもしれないと
真美に電話した。

出るまで電話から離れねえと
意地を張った。


そして突然、卓郎の
携帯を握る手の力が消えて…