「ただいま~!」

家に帰ると、ママがぼぉ~とテーブルに肘杖をついて、テレビを見ていた。

私が帰って来たのも、気付いてない。

私はリビングに入り、カバンを下ろすと、ママの背中からそっと抱き締めて、「ただいま」と頬ずりした。

「あっ、あら。綾乃、もう帰って来たの?早かったわね」
「もう、5時だよ」
「もうそんな時間!急いでお夕飯作るわね」

ママは急いで、エプロンを付けるとキッチンへと急いで入って行った。

私はテレビのリモコンを手に取るとボリュームを下げた。

テレビでは今日の株式市場とか、世界情勢のニュースが流れていた。

ママが絶対に観そうにない番組だ。

ママは、きっと、今朝からずっとあのままの姿勢で、このチャンネルのまま、ぼぉーーっと一日を過ごしていたに違いない。

パパのことを思いながら……。

無理もない。

パパとママは万年ラブラブ夫婦で、私から見ても呆れちゃうくらい仲が良かった。

それが……。

いけない。

ママに涙を見られないように、急いで自分の部屋へ行こうとした。

その時、チャンネルが歌番組を映し出す。

オープニングの歌からいきなり翔のグループ「SILVER」の新曲「Never Say Goodbye」が流れる。

そうだ。
大事なこと忘れてた。

私はママに歌を聞かせようと、テレビのボリュームをちょっと上げた。

「ママ、今日、この人が家に来ることになったの」
「この人って?」

ママがキッチンからひょいと顔を出す。

「この人」

私は翔を指差す。

「この人って??」

ママが眉間に皺を寄せて再度聞き返す。

「だから、この人!ここに映ってるリーダーの葛城翔(かつらぎしょう)!」

私はセンターで歌っている翔を指差す。

ママはうるっと目を潤ませると、首を振った。

「綾乃……。ごめんなさい。ママが悪かったわ。私がしっかりしていなかったばっかりにあなたまで……」

ママがよよっと泣き崩れたまさにその時、玄関のチャイムがピンポーンと鳴った。