翔は荒々しく扉を閉めると、大股で廊下を歩き始めた。

ブーツや衣装についた装飾品がジャラジャラと音を立てながら、廊下の壁に反響する。

翔は無言で私の腕を掴んだまま、強引に歩いて行く。


いつもと違う翔。

こんな煌びやかな舞台衣装を着る翔なんて、私、知らない。

私の部屋で一緒に勉強している翔は、もっと優しくて、いつも笑ってて……


彼に掴まれた腕が痛い……


次第に歩く足が重くなる。

私の歩く足が止まり、翔が後ろを振り返った。

「……綾乃さん?」

うつむく私に翔がおたおたしている。

「綾乃さん……さっきはごめん」

私は首を横に振り、ようやく会えたいつもの優しい翔に、じんわりとこみ上げて来た涙を必死でこらえようとした。


その時、突然、翔に抱きすくめられる。


驚く私の耳に、「「「アンコール!アンコール!!」」」と叫ぶファンの声と拍手が聞こえて来た。


「俺の控室で待ってて。コンサートが終わったら一緒に帰ろう」


一層高まるファンの声に「翔!出番だぞ!!」とスタッフからの呼び声が掛かる。


「じゃ、行って来る。いい?絶対、待ってて!」


翔はもう一度私を抱き締めると、耳元で何かを囁いた。


でも、その声は他のファンの歓声にかき消されてしまう。


「翔!」


何?

なんて言ったの?今


翔は笑いながら私に手を振ると、無数のライトに輝くステージへと帰って行った。