翌日も翔は家にやって来た。

相変わらずの豪快な食べっぷりにママも腕を奮うのが楽しそう。

食事が終わると翔が立ち上がり、コホンと一つ咳をした。

「今日は食事のお礼に1曲、歌を披露します」

えーーー!!
ナマで翔の歌が聴けちゃうの?!

私とママは嬉しくて、お互い顔を見合わせ、パチパチと手を叩く。

「じゃ、この電子ピアノ?だよね?借りてもいいっすか?」

翔はリビングにある電子ピアノの電源を入れると、もう一度、咳をして、背筋を伸ばすと両手を鍵盤の上に置き、「Never Say Goodbye」を弾き始めた。

翔、ピアノも弾けちゃうんだ。

彼の指が鍵盤の上を華麗に舞う。

そして、甘く切ない旋律に乗せて、少しハスキー気味の彼の歌が始まる。



僕達の出会いは

神様のちょっとしたいたずら

だけど僕達にとってそれは運命

Never Say Goodbye

きっと僕達は巡り合う

Never Say Goodbye……


その後、翔が隣の部屋に撮影に行き、勉強している間、私は彼が歌った「Never Say Goodbye」を口ずさむ。


その時、部屋の窓をノックする音に急いで窓を開ける。

「綾乃さん、ごめん。今日は押してて行けそうにない」

翔が申し訳なさそうに、頭を下げる。

「そんな……。お仕事頑張って下さい」

翔が少しだけ考え込む。

「ちょっと、出て来れない?数分でいいんだけど、ダメ?」

翔が窓から手を伸ばし戸惑う私の手を掴む。

「少しだけなら」

「良かった」

彼の子供のような無邪気な笑顔に、心臓が不規則に鼓動を打つ。