学校で男の子達が、私のことを噂していたことを思い出す。

『笑喜ってさ、カワイイんだけど、あそこまで頭イイとイヤミくねぇ?』

『分かる分かる!なんか、頭イイにも程度ってもんがあるよな』

『女はやっぱ、ちょっとバカな方がカワイイって』


私は急いで立ち上がり、翔からバインダーを取り返そうと、手を伸ばす。

背が私より頭一個分高い翔はバインダーをひょいと持ち上げ、私の手をかわす。

「恥ずかしいから返して下さい!」

私の言葉に翔が眉をひそめる。

「何で恥ずかしいの?人一倍頑張ってるって証拠でしょ?」

翔はバインダーを閉じると、私に返してくれた。

私は翔からバインダーを取り戻すと抱き締め、彼に背を向けた。


「からかった訳じゃないよ。ただ、純粋にすごいって思ったんだ。傷つけたんならごめん」

彼の方が逆に傷付いているような気がして、私はバツが悪くて、口を開いた。

「もしかしたら私が一生懸命頑張ったら、パパの病気も治るかもしれないって思って頑張ったの。私が良い点数を採るとパパも喜んでくれたし……。それに、勉強している時は、つらいことも忘れられたから。でも……」

そこまで言って、ドキッとして、慌てて口を塞いだ。

私、パパの話題ばっかりだ……


ファザコン+演歌好き+ベンキョーしか出来ないダメダメ女=周囲ドン引き


上記の公式がドーンと私の背中にのしかかる。

もう、きっと、翔、引いたよね。

こわごわ振り向いて、翔と目が合ってしまう。

でも、翔の瞳は穏やかで思わず、心臓がドキンと跳ね上がる。

「そこまで綾乃さんに頑張らせるなんてさ、親父さんはきっと凄い人だったんだろうな。それにひとつの事に一途に打ち込むのってやっぱすごいって尊敬するし……」

翔はテーブルの前に座り、ノートを開きながら、ポツリと呟いた。

「綾乃さんはきっと、そんな風に一人の男を一途に愛するんだろうな」


翔……

私はバインダーを持つ手が震えた。