学校から帰って来たある日――――――

私の住んでいるマンションに、おびただしい数のパトカーと救急車が止まっていた。

そして、マンションのエントランスには棒を持った警官が10人くらい。

その周辺には黄色いテープが貼られ、周りを野次馬らしき人影が背伸びして中を覗こうとしていた。

「何?何が起こったの??」

私はカバンを胸の前に抱え直すと、その人混みを掻き分け、エントランスに急いで向かった。

『306号室が火元と見られます。女性らしき遺体を発見。至急、鑑識を送って下さい』

近くに止まっているパトカーの無線から洩れる声に、全身の血の気が引く。


さ、さんまるろく!!

私の家の隣だ!

女性って……ママ?

ママなの?

目の前が真っ暗になる。

私は人混みも黄色テープも押し退けて、エントランスに駆け込む。

「き、君!」

私の腕を掴む警官の手を振り払い、エントランスの中に入り、エレベーターのボタンを押した。

警官数人と、何人かの男の人達が血相を変えて私のことを捕まえようと追い駆けてくる。

ダメ、捕まっちゃう!
階段の方が早い!

エレベーターの背後にある非常階段の扉を開ける前に、エレベーターのドアが開き、中から救急隊員とストレッチャーが出て来る。

ストレッチャーからは、焼けただれた手がダラリと落ちているのを見て、もう、正気ではいられなくなった。


「ママ!ママ!!」

私はストレッチャーにしがみ付き、大声で叫んだ。

「ママ、死なないで!私を独りにしないで!!」

「カット!カットカットカットォォォ!!!」


突然の声に驚き、顔を上げると、私の直ぐ目の前に、人気グループ『SILVER』のアイドル『翔』の驚いた顔があった。

「翔?何でここに……?」


「君ィ~!撮影の邪魔だよ!」

背後から知らない男性に肩を掴まれ、慌てて振り向く。

撮影?

そう言えば、撮影のお知らせがポストに入っていたことを、はっと思い出す。

まさか!

私はストレッチャーの上に掛けられた毛布をガバッとまくった。

「にん……ぎょう……」

そして、安心したのか軽いめまいを覚えて、その場で座り込んでしまっていた。