彼女は『紗奈』と名乗った。


なぜか、下の名前だけだった。


だから僕も『雪人』と下の名前だけ名乗った。


それから「雪って呼んで。」とも。


リンゴはおいしかったが、小さくて


すぐになくなってしまった。


まだ、おなかはすいていた。


「お家に行ったらご馳走してあげれるけど、来る??」


僕にはうれしい提案だった。


ここで別れても、たぶん飢え死にするだけだろう。


お金は、持っていなかった。


「うん。行きたい」


すぐさま立ち上がり、紗奈の足が動くのを待つ。


なかなか動き出さないから、なんだろうと思って顔をあげると


紗奈がくすくすと笑っていた。


「そういう体力はあるんだね」


「だ、だって、うれしいから」


「うん。よかった」


どこまでも小さな声で、少しの会話だった。


でもなぜか、ホっとした一瞬だった。