あたしは「お客様BOOK」を開いて、そこに書いてある文章にビックリした。
「あっ。また矢田さん書いてる」
「誰?その人」
矢田さんは、あたしがこの喫茶店に通う少し前から利用しているお客さん。
字がすごくキレイだから、自分の中で勝手に清楚な女の人を想像していたりする。
「“今日も来させていただきました。MOCAで初めてハーブティーに挑戦しましたが、とてもおいしかったです”だってー。あたしもハーブティー頼めば良かったぁ」
美和ちゃんはあたしを見て、少しあきれたような顔をする。
自分だって佐々木君の容姿にヤられてるくせに。
「んで高野さん、その矢田さんってどんな人ですか?」
ココアをいれ終えた高野さんに美和ちゃんが話しかける。
「あぁー残念。俺、矢田さんに会ったことない」
「なんでぇー?!」
ココアとミルクティーをあたし達の前に出しながら、高野さんは答えた。
「矢田さんね、毎週金曜日に来るらしいんだけど、俺金曜日は別の仕事でMOCAに出勤してないんだわ」