同時にプリンとスプーンが奪われた。
(わたしの番?)
その意味はわかっている。
つまり、自分もやると言うことである。
「はい、アーン」
永田がプリンをすくったスプーンを差し出してきた。
光は恥ずかしさのあまり、このまま焼け死ぬんじゃないかと思った。
焼け死んだら困るけど。
もうこうなれば、仕方がない!
パクリと、光はプリンを口に入れた。
「――美味しい…」
一瞬、本当にプロが作ったんじゃないかと思ってしまった。
ほっぺたが落ちるとは、まさにこう言うことである。
1人で幸せな気分になっている光に、
「光、クリームがついてる」
チュッと、一瞬だけ頬に唇が触れた。
唇…?
「えっ、えーっ!?」
ビックリしている光に、
「何だよ」
永田は不思議そうな顔をした。
「だって、今、ほっぺに…」
もはや、何を言っているのか自分でもよくわからない。
そんな光に、ククッと永田が笑った。
「どんだけ純情なんだよ」
「…だって、初めてだったから」
つきあって、早4ヶ月が経っている。
永田とは躰の関係もなければ唇の関係もなかった。
「敦は、初めてな訳ないもんね」
当然自分よりも年上で、自分よりも生きている訳だから。
「まあ、そりゃな」
大きな手が頭をなでた。
「けど俺は、光の初めてが俺でよかったって思ってるよ」
ニコッと優しく微笑んで、永田が自分を見つめてきた。
そんなことを言われたら、返す言葉が見当たらない。
「ずっと、一緒にいてくださいね?」
自然と唇からこの言葉が出てきた。
「ああ、約束する」
重なった唇に、光は目を閉じた。
これから先も、彼が隣にいてくれますように。
彼との間に、ずーっと愛がありますように。
そう願ったのは、ここだけの秘密だ。
☆★END☆★
3月上旬。
その日は、3年間の高校生活に終わりを告げる日だった。
もうすぐ春だと言うのに、気温はまだ冬のままだ。
校門を出ると、光は振り返り、3年間通った校舎を見あげた。
「いろいろあったな…」
光は呟いた。
高校の3年間はいろいろあったけど、全部大切な思い出だ。
「川上」
聞き覚えのあるその声に視線を向けると、
「先生」
永田だった。
名前を呼ばれた永田は微笑むと、
「卒業おめでとう」
と、言った。
彼からの卒業祝いの言葉に、
「ありがとうございます」
光は微笑んでお礼を言った。
その日の夕方。
光と永田は手を繋いで、役所を出てきた。
「光、3年間ご苦労さん」
永田が労いの言葉をかけた。
「敦も3年間お疲れ様でした」
光も労いの言葉を返した。
たった今2人は役所に行って籍を入れてきたのだ。
「これから光との結婚生活が始まるんだな」
永田はしみじみに言った後、首を縦に振ってうなずいた。
「何だか変な感じだね。
今まで一緒に暮らしてきたけど、いざ結婚してみると…うーん、何だろうな」
そこまで言って考え込んだ光に永田は笑って、
「これからよろしくな、奥さん」
と、言った。
光は笑って、
「旦那様もよろしくお願いします」
と、返した。
☆★END☆★