でも、ぼくには結花について、どうしても気がかりなことがあった。


街のあちこちで受験生があふれ出し、本屋が参考書でいっぱいになる時期が来ても、彼女は進路を決めようとしなかった。


「もう間に合わないよ?」
ぼくは、あのパンフレットを見てから、何度も結花に忠告した。


「いいの。お父さんもお母さんも、自分のやりたいことが決まってから、決めればいいって言ってくれてるから」

「少し、呑気すぎやしないか?」

「翔ちゃん。お願いだからもう、そのことは口に出さないで」

結花はその日珍しく、強い口調でぴしゃりと言った。
ぼくは、自分を拒否されたようで、なんだか癪にさわった。

「なんだかへんだな。結花って」

「へんってなによ?」