「おはよ、和尚」

ぼくは挨拶を返したが、結花は小さくうなずいただけだった。


ぼくは、気まずい雰囲気を打破するために、なにか話題を探そうとした。
だが、そんなことは和尚が先にやってくれた。


「翔。こないだ、視力検査したんだって?」

「ああ。両眼とも1.2。ぼくって、パイロットになるために生まれてきたんじゃないのかなあ」

「『月刊エアライン』読ませてもらったよ。このまえ、おまえが机の上に置きっぱなしにしてたやつ」

「ああ、面白いだろ?もう時代はジャンボじゃないけど、ぼくはあれが好きなんだ」

「ボーイング787の出来ってどうなんだろうな。コストパフォーマンスがいいのは感心だけど」


ぼくらは申し合わせたように、男同士の会話をした。
結花は取り残されて、満員電車のなかで、じっと身をひそめていた。