愛子が飛び跳ねて、数メートル離れた場所へ行ったとき、和尚がツイードのジャケットに、肩からデイバッグをかけて、出発ロビーのまえに現れた。

ぼくは、彼を真正面に迎え入れた。


「いよいよだな」

「まあな。やっとこれからって気もするけどな」

「愛子、あっちで知り合いとしゃべってるぜ」

「相変わらず、変わったやつだな。…まあ、またそのうち会えるさ」


でも、ぼくは思った。
そのうちなんて、別れの言葉と同じだと。


空港のアナウンスが流れた。
《ノースウエスト航空12便デトロイト行きは、ただいま最終の出発案内をしております。…お急ぎ手荷物検査場へお越しください。》