†side長谷部†


「僕、いきなり何言って…!」

自分の口から出てきた言葉に驚き、僕は少し焦っていた。

(絶対変なヤツって思われた…)

「おい」

聞き覚えのある声に呼び止められ振り返ると、やっぱり塩崎くんがいた。

「なんですか?」

「お前さ、アイツと何かあっただろ」

“アイツ”とは白鳥さんのこと。

「何かって…」

「とぼけんなよ。分かるんだよ。で、何だよ?」

「…別に。塩崎くんに言うほどのことではないです」

そう言った瞬間、塩崎くんは僕を壁に叩きつけた。

「くっ…!」

「女みてぇな面してるくせに、言うことは男前だな」

「…何をそんなムキになってるんですか?そんなに白鳥さんが好きなんですか?」

そう言うと、塩崎くんは顔を赤くした。

(分かりやすいやつ…)

僕は心の中でそう思ったけど、口には出さないでおいた。

塩崎くんの腕が緩んだのを確認してから、僕はその腕を振りほどいた。

「…あんまり遅いと、とられちゃいますよ?」

「言われなくても分かってるっつーの!水沢…アイツには注意してるし…」

ブツブツ言い続ける塩崎くんを無視して歩いた。

「僕…とかね」

そんなことを僕が言っていたなんて、塩崎くんは知らないだろう。

この時こう言ったのは、多分、仲間外れが嫌だったから。

みんな白鳥さんを好きだから…多分。

でも、少しずつ僕の心は傾いていって、

取り返しのつかない所まで達してしまったのだ。