「…あの」

「ん?」

「もうそろそろ行かないと、みんなに怒られちゃいますよ」

「あ、あぁ。じゃ、行くか…ありがとな」

「急ぎますよ!!」

「おう」

―――

「遅れてすみませんでした!!」

「悪ぃ悪ぃ。遅れた」

「随分遅かったね。何してたの?」

黒崎先輩に言われ、あたしはどもってしまった。

「えっと…」

「俺の用事に付き合ってもらってたんだよ。な?」

「え、はい」

まぁ、確かにそうだしね。

「ふーん…ま、いっか」

『ま、いっか』!?

また何か企んでるよ、絶対…

「…」

塩崎が珍しく黙っていた。

「どうしたの?なんかあった?」

「あっいや、別に…」

…変なの。

塩崎はしばらく黙ってから口を開いた。

「あのよ…俺、さっき見ちゃったんだけどよ」

「うん?」

「中庭で、水沢さんと抱き合ってただろ?」

「…!!」

塩崎の一言で会議室の空気は凍りついた。

「それ、ホントなの?」

「…そうなのか?」

「…」

「そうなんですか!?」

「おい…なぁ、何か言えよ。なぁ!!」

「それは…!!」

「俺が一方的に彩音ちゃんを抱きしめた」

「お前、どうしてそんなこと…!!」

「好きだからだ」

「お前の周りの女とは違うんだよ!!」

「分かってる。だからもうアイツらと縁切ったし…俺は本気だからな」

「…っ!!」

「行動にも移さねぇで怖じ気づいてる奴とは違うからな。俺は」

水沢先輩はそう言ってあたしの方を見た。

「さっきも言ったけど、ゆっくりでいいから。俺のこと、好きになってくれ…じゃ」

「あっ!水沢先輩!」

帰ろうとした水沢先輩を、あたしは呼び止めた。