「私、何かおかしなこと言った?」


私は慎重に聞いた。

やっと落ち着いた奈美は目に涙を溜めながら口を開いた。


「あのね、亜莉子さっき『危険だと思った』って言ったじゃない?
それをあたしは襲われるの方の危険だと思ったわけ」


私は顔が一気に熱くなるのを感じた。


「そんなこと、私が思うわけないじゃん」

「でしょ?
亜莉子は男嫌いだし、まさか江坂くんがそんなことするはずないなーって思ったら、巻き込まれる方の危険って閃いて。
そしたら、笑いが…」


また奈美は肩を震わせはじめた。



あり得ない。
私は頬を膨らませた。


「もう知らない」



「ごめんて。怒んないでよ」


「別に怒ってないし」


そう言うと、奈美が私の手を取り、走り出した。


「怒ってないなら、仲良く帰りましょ」

奈美は私に向かって勝ち誇ったような顔をする。


駄目だ。奈美には敵わない。


「……もうしょうがないなぁ。
そんなに一緒に帰りたいなら、帰ってあげましょう」



こんな些細なやり取りが、なんて平和で幸せなんだろうと思う。


これから江坂奏に巻き込まれていくとは知らずに、そんなことをのんびりと考えていた。