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ぼんやりとした足取りで帰路につく。
私はもしかしたら大変なことに巻き込まれたのかもしれない。
江坂奏との会話を思い出す。
『俺達は警察には出来ないことを任されている』
『それって、潜入捜査…とか』
『そういうのをやってるところもあるけど、俺達がやってるのは少し特殊なんだよね』
『……なに?』
『警察は犯罪が起こったら動く。俺達がやってることは犯罪が起こる前にそれを阻止することだ』
それから江坂奏は今の状況を話してくれた。
今、犯罪はどんどん進歩してるという。
様々な手口が増え、また、犯罪者の数も増えているらしい。
政府はどうにか犯罪を減らす方法はないか、考えた。
警察は犯罪が起きてからじゃないと動けない。
法ではそこまで人間を縛れない。
それなら、どうすればいいのか。
縛れないのなら、警察とは別に犯罪を止める組織を作ればいい。そう考えたそうだ。
そこで作られたのが『特別犯罪探偵係』だ。
江坂奏の事務所もこれに属しており、活動を行っているという。
この組織は一般市民には知らされていない。
何故なら、知らせることで人々の混乱を招き、また、犯罪を助長する可能性があるからだという。
江坂奏が話してくれたのはここまでだった。
まだまだ聞きたいことがあったけど、「また今度」と受け流された。
やり方や、いつから始めるのかなどの質問も「そのうち教える。バイトの開始は夏休みが始まってから」と詳しく教えてくれなかった。
最後にひとつだけ、江坂奏に訊いた。
『私、素人だけど大丈夫なの?』
彼は笑んだ。
『大丈夫。素人なのは承知だからそれなりに配慮するし、危険なときは守る』
そこで一拍区切ってから江坂奏は続けた。
『それに、素人だからいいんだ』
何故この質問にだけちゃんと答えてくれたのかはわからない。
もしかしたら、不安を感じている私への配慮かもしれなかった。
家を去るとき、
『夏休みに入ったら暇がなくなるから、今のうちに準備しておいた方がいい』
そんな言葉を掛けられた。
準備ってなんのだろう?
夏休みまであと2週間。
少なくとも、心だけはちゃんと整理しておこう。