「じゃあ、悪い人が手に入れても大丈夫なんだ」
そう独り言のように呟く。
「そうだね、悪い人ね。うん、悪い人が買ってもわかんないからね」
『悪い人』と連呼する江坂奏。
そして静かに肩を震わせているお姉さん。
「……言いたいことがあるなら言えば」
「別にないよ」
しれっとした顔をする江坂奏。
からかわれていると頭では分かっているけど、イライラが止められない。
確かに自分でも稚拙な言い方だと思う。
でも、どんな言い方をしたっていいでしょ?
ああもう。
こういう人は苦手。嫌。嫌い。
こんな人と関わりたくない。
いつもの自分ならここで勝手に言いたいことを言って、それで終わり。
ちゃんと苦手なことと向かい合おうとしない。
今も出来れば向かい合いたくない。逃げたい。
だけど、それと同時に少し自分を変えてみたかったりもする。
これから江坂奏と関わっていくのはどうしても避けられないことだ。
男性と共に過ごす時間が増えれば、男が苦手というのも軽くなるかもしれない。
その可能性を思うと、さっきまでのイライラも少し治まった。
さっきのことを蒸し返されないように、話題を変える。
「で、その雑誌にはどんな情報が入ってるの?」
そう訊くと、江坂奏はにやりと笑んだ。
「国家機密」
「こっ……、国家機密ぅ?」
探偵は個人経営だと思っていた私は思わず聞き返してしまった。
それってものすごく重要で危険な仕事なんじゃ?
「あれこれ訊かれる前に言っとくけど、俺たちは国から頼まれた仕事をやってる。このことは一般市民には知られてないから秘密ね」
それから訊いた話はとても信じられないものだった。