江坂奏は立ち上がると、本棚から一冊の本を取り出した。
「あ、それこないだ江坂が買ってたぼったくり雑誌だ」
江坂奏は失笑する。
「まあ、普通こんな高い雑誌を買う人はほとんどいない。でも俺は買ってる。……どういうことかわかる?」
「……もしかして金持ちなの?」
「あのさ、今はそんな回答求めてないんだけど」
呆れた声を出す江坂奏に心の中で悪態をつく。
金持ちだからなのもしれない。普通これが最初に思い付くことなんじゃないかな。
だって一般人は買おうなんて思わないだろうし。
4500円払ってまでの価値があるとも思えない。
金持ちだとしても買うかどうかなんて怪しいぐらいだ。
そう考えてふと思考が止まった。
江坂奏は自分を探偵だと言った。
探偵。
一般職かと訊かれれば、よくわからない。
けれど、特殊であることは確かだ。
つまり、江坂奏は一般人じゃない。
それに、私が立ち読みしたものは名探偵特集をしていたはず。
もしかしたら、その雑誌は探偵に関する情報を取り扱っているのかも。
「もしかして、探偵だから買ってる?」
そう恐る恐る言えば、江坂奏は笑みを溢した。
「正解。この雑誌には俺たちが必要とする情報が含まれているんだ」
でも、と声を上げる。
「なんにも知らない人が買う可能性だってあるんじゃないの?そんな簡単に誰でも手に入る状態で大丈夫なの」
知らない人ならまだいい。
悪事を働こうとしている人が手にしたら、悪用されてしまうんじゃないか。
江坂奏は雑誌を片手に持ち、それを振って見せた。
「ん、大丈夫。大体、こんな怪しい名前だし高いしで買う人は少ない。もし、買ってしまっても暗号化してあるからこの仕事を受け持ってる人しかわからないよ」
『I love 秘密主義ヤッホホーイ』という名前の雑誌。
確かにあまり欲しくない。