「差し押さえ」という張り紙も虚しく、扉はあっさりと開いた。


「本当に差し押さえじゃないんだ……」

「なんでちょっとガッカリしてんの」



昨日と同じ部屋に通され、まず最初に綺麗に畳まれた制服を渡される。


おかえり制服!

私も昨日着た服を返さないと。


紙袋に入れた学ランとウィッグを渡そうとした。


しかし、それは江坂奏の手に制された。


「昨日の話、少しは考えてくれた?」



昨日ということはバイトの件か。

正直に言えば考える暇もなく寝てしまった。


そもそも昨日から頭は混乱したままで、もう何を考えればいいのかもわからない。


「正直言うと、考えてない。話を聞くだけでいいって言われたら、今度は聞いたら参加しろ。その次は参加したくなければ聞かなければいい。もうワケわかんない」


「姫野さんは正直だなぁ。でもその中に正しい答えはないから」

正しい答えがない?


「……どういうこと?」


「もともと姫野さんには拒否権がなかったんだよ」


「……どうして?」


江坂奏はポケットから封筒のようなものを取り出した。


そして私に向かって差し出す。


手紙?

封を切って中身を取り出すと、見覚えのある筆跡で書かれていた。


『亜莉子へ

話は江坂くんから訊きました。
亜莉子はめんどくさがり屋だから、やりたくないと思っていることでしょう。

でも、このバイトはきっとこれからの人生いい経験になると思います。

だから、バイトを受けてみなさい。


……というのは建前で、あんた絶対バイト断らないでよ。

亜莉子が断ったら姫野家は路頭に迷うことになるんだからね。それでもいいの?

もしかしたら、県外どころか外国に逃げなくちゃいけなくなるかもしれないんだから。


いい?
これは命令だから。それと、なに脅されたの?とかどうしてそこまで逃げなくちゃいけないの?とか家族に訊くんじゃないわよ。

訊いたら……わかってるわよね。


亜莉子、期待してるからね。


ママより』