「待ってろよ、江坂奏」

そう呟いて数分が経った。


私は江坂奏の家の前にいる。


昨日と変わらない不気味な雰囲気、壁に引っ付いてる蔦(つた)、薄暗い空。


ほぼ同じだ。


なぜ「ほぼ」なのか。

それは昨日の建物に新たに付け加えられてるものがあったからだ。


「差し押さえってどういうことだよ!」

思わず叫んでしまった。

「差し押さえ」と書かれた貼り紙に、しっかりと施錠されたドアが目の前にたたずんでいる。


場所はここで間違いないはずだし、建物もなんら変わってなない。


「だから差し押さえってどゆことなの!」


じゃあ江坂奏はもうここに居ないの?


私の制服は?


「私の制服返せ!」


江坂奏はどうでもいい。

ただ、私の制服だけは。制服だけは取り返さなきゃ!


いくらしたと思ってるんだ!



「ぶはっ」


突然上の方から吹き出した音が聞こえた。

この声は聞き覚えがある、きっとあいつだ。


「姫野さん心の声だだ漏れすぎ」


辺りを見回すと、鬱蒼とした木々がカサカサと揺れている。

「亜莉子ちゃん、まさかこんな嘘も信じるなんて……ぶっ」

姿は見えないけど、上に向かって言葉を投げ掛けた。


「ええ、信じましたよ、さっきまで!だって差し押さえって書いてあるし!どこをどう疑えばいいんですかっ」


「ごめんねー。亜莉子ちゃん面白くて、つい」


「とりあえず、そこにいるのはわかってるんです。江坂もお姉さんも降りてきてください!」