開け放った窓の外ではサッカー部が元気にボールを蹴り合っている。
生暖かい風と共に聞こえてくる吹奏楽部の音色。
バシンバシンとボールを打つ音に雄叫びのような声をあげているバスケ部。
そんないつもと変わらない日常の中、私は危機的状況にいた。
「話ってなに」
なるべく刺激しないように言ったつもりだったのに、明らかに警戒の色が滲み出ていた。
そんなことを気にせず、彼は私に笑いかけた。
「姫野亜莉子(ヒメノアリス)さんにお願いがあるんだ」
彼――江坂奏(エサカカナデ)は言った。
一般の女子だったら、江坂奏にこんなことを言われたら断れないだろう。
大きくて綺麗な瞳、長い睫毛、それに加えて茶色く少しパーマのかかった髪に気さくで話しやすい、明るい性格。(…とみんなが言っている)
江坂奏は顔も性格もいい、いわゆる人気者という類いの人種だ。
彼の周りにはいつも人がいるし、女子が黄色い声を上げて熱心に江坂奏の話を聞かされることもしばしばある。
だから、そんな人の願い事を女子だったら誰も断らない。