女の人は上から下まで舐め回すように視線を寄越してくる。

私は身を固くした。

「ちょっと奏、早く手錠外しなさいよ。あたし、これからこの女を問い詰めるんだから」


ちょ、なんで私が責められる流れになってるの?
普通だったら、男とケンカするパターンでしょ。


「はいはい、あとは姫野さんのこと任せるからね」


江坂奏、お前もなに言っちゃってんの!
誤解を解いてよ!


私は軽く江坂奏を睨んだ。

「早く彼女に説明してよ」


「俺にはムリ。姫野さん、代わりにお願い」

もう、しょうがないなあ…って、ふざけんな!


江坂奏、説明する気ナシ。
彼女、話を聞く気ナシ。
もうこうなったら自分でなんとかするしかない。


でも、どうすればいいんだ。

バクバクしてる心臓を落ち着かせるために深く深呼吸する。

私は悪くない。
何もしていない。


そう心に確認すると、ゆっくりと女の人へ向き直った。

視線が交わったことに驚いた女の人は一瞬怯んだように見えたが、また強気な眼差しを送ってくる。

今がチャンスだ。


怯えてるから、恐く見えるんだ。


誤解なら、ちゃんと説明すればいい。


もしそれでも疑惑が晴れないなら、もうどうにでもなれ!


なんとかなる!


「あら、随分自信たっぷりじゃない?なあに、奏は自分の彼氏だって宣言でもするつもり?」

女の人が挑発するように言う。


だんだん落ち着いてきた私は思い切って口を開く。


もう思い切ってしまえ!


「はっきり言いますけど、そもそもなんでこんな男がいいんですか?平気で嘘つくし、時々笑顔が恐いし、何考えてるかわかんないし。私だったら、絶対無理です。だから付き合ってません早く帰らせてください」


我ながら自分はなにを言っているんだろう。

これじゃ、逆効果かもしれない。

そう思っていると、
ククっと笑いを噛み殺した声と同時に、ブハッと吹き出す二つの声が重なる。

私は目を丸くした。

何故笑われている?

事情を理解しているであろう江坂奏ならまだしも、挑発してきた女の人も目を伏せ肩を震わせていた。


え、修羅場じゃなかったの?


一瞬にして和んだ空気とその急激な展開についていけない私は、取り残されたようにただ立っていた。