この状態に至るまでそんなに時間がかからなかった。
遡ること数分前。
玄関に連れて来られると、ある女性が仁王立ちで睨んでいた。
「ねぇ、貴方が姫野亜莉子さん?奏とはどういう関係?」
「…ハイ、私が姫野亜莉子ですが」
女の人は凄く綺麗で、いかにも「私が彼女です」と強調するように、至るところに『I LOVE 奏』や『祝!両想い』という刺繍の入った服を着ていた。
まさか、彼女?
いくら彼女でも、このセンスはちょっといただけない。
しかし刺繍の技術は素晴らしいものだった。
「奏に話があるって言われたから来たのに。なんでこんな女と一緒なのよ」
まずい。
これは誤解されてる。
「私はただ話があるって連れて来られただけで」
「そんなのあたしと同じじゃない!なんで、あたしとあなたが一緒に呼ばれるの?」
やばい。
墓穴を掘った。
「私は知りません」
「まさか、あなた浮気相手?ちょっと、どういうことか説明してよ!」
ダメだ。なに言っても聞いてないよこの人。
助けを求めるべく視線を斜め前に移すと、江坂奏は平然とした顔をして、制服のポケットからキラリと光る鍵を取り出し手錠を外そうとしていた。
…………。
鍵、持ってるじゃんか。
今すぐ問い詰めたい。でも、今は水に流そう。
だってそれどころじゃないんだもん!
この状況は俗にいう修羅場でしょ?
この世に産まれて17年。初めての体験だから、どうすればいいのかわからない。