黙々と歩く江坂奏に黙ってついていく。

正直、これから話を聞いても聞かなくても私の心はもう決まっていた。

どんな話でも断ろう。

脅されたとしても、変な噂を流されてもいい。

それに、奈美だけは友達でいてくれるだろう、……多分。


ただ江坂奏とは関わりたくない。
それだけだ。



「…姫野さんってさー」


江坂奏が躊躇いがちに口を開く。



「男嫌いって聞いたわりには結構話すよね」


私は衝撃を受けた。
男嫌いって知ってんなら、違う人に頼めよ!
何故私なんだ!


「へぇ、知ってたんですね」


心情とは別に、私は冷静に答える。


「なんで敬語?」


「なんとなく。それで?」


「ちなみに俺のことも苦手でしょ?」


「そりゃ男ですから」

江坂奏の顔から突然笑みが消える。


「そういう意味じゃない。男としてじゃなく、人間として」

見抜かれてる。


「……」


「まあ、別にいいけど。でもこれだけは覚えといて。一度捕まったら、もう逃げられない」


それはまるで今の状態を現しているようだった。


繋がれた手と手。
鍵がなければ、離れることは出来ない。

私、捕まっちゃうのかな。


断る、さっきそう決めたはずだった。
だけど、ここまで来たら断るのは至難の技がいるのかもしれない。


「さて、着いたよ」

止まった足元の先にはそう思わせる原因があった。


まるで刑務所みたいだ。


そこには木で覆われ、光が差さない不気味な建物が目の前に建っていた。