自分で捕まえておいて忘れてたとか。
呆れて溜め息もでない。
「…あのさ、あんたは私を捕まえてまで聞いてもらいたい話があるんでしょ?
なら、忘れたとか言うのは失礼じゃないの?」
前を歩いてた江坂奏が急に止まり、私のほうを見た。
凍りくような冷ややかな瞳が私を見ていた。
「じゃあさ、姫野さんはどうなの?俺に失礼なことしてないって、言いきれる?」
「それは……言いきれない」
思い返してみれば、私は江坂奏にとって失礼な態度をしていた。
いくら男が苦手だといっても、今考えると自分の身勝手さが恥ずかしい。
「確かに、あなたに対して逃げたり避けたりしたのは失礼だった。ごめんなさい」
素直に謝る。
いつの間にか江坂奏はいつものように穏やかな笑みを浮かべていた。
「別におあいこだし、いいよ」
そういって歩き出す。
こ、怖かった…。
今になって冷や汗が流れてくる。
あんな冷たい瞳もできるんだ。
いつもの穏やかな雰囲気とは全く正反対で、正直かなり驚いた。
ということは、それだけ怒っていたんだろうか。
ちゃんと謝ったんだから、もう怒ってないことを願いたい。