……杏里?





杏里って…





───九条杏里。






頭の中にその言葉が閃いた時、俺はその子──九条杏里に声をかけていた。





「……おい」


自分で思ったよりも低い声だったためか、騒いでいた生徒たちが静まった。


「はい?」


九条杏里がくるりと振り返る。


ふわりと花の香りがしたが、俺はそれを無視して続けた。

「お前が、九条杏里か?」


少しだけ間をおいて彼女は答えた。


「はい!そうですけど?」


ふにゃりと笑う顔さえ可愛らしい。