『ちょっとー、楓? 今女の子の声しなかったねえ? ちょっと楓ー』


あ。忘れてた。


「気のせいだ。つーかもう切るぞ」


『ちょっとなんでよーっ。いきなりフランスに行くなんて言っちゃっておかーさんびっくりしたのよ? さては真裕ちゃんに会いに行くんだったのね』


会いに行くんじゃなくて一緒に来たんだよ。


「とにかく今散々なんだよ。帰るの伸びるかもしんねぇから」


『そおよねそおよね! うちにも時々取材の人が来てるわよ。今はいませんって言ったら帰ってくんだけどね』


こっちほどではないだろうけど、日本も相当なんだろう。

この母親は物事を妙に軽く捉えて話す。

この人が「時々」っつーことは相当ってことだ。


「悪いな」


まあある意味俺のせいでもあるわけだから、さすがに一言謝罪を入れ、相変わらずテンションマックスのまま電話は切れた。


「……なんで俺の周りはこういうやつばっかなんだ」


蓮二くらいなもんだな…マシなのは。

…いや、アイツもなかなか…か。



それから十数分、俺の渡したシャツを着こんだ真裕が出てきた。


「おっきいよこれー。かっくんおっきいんだねぇ」


「お前がちいせぇの」


「むう」


……マジ可愛い。なにこいつ。