……なにはともあれ、こうして音楽祭は始まった。
始まるまでも長かったけれど……始まってからも、それはそれは長いのだった。
真裕が言った通り、睨みは効いたらしく…。
あれ以降藤峰の名が出ることはなかった。
「間もなく開演いたします! ご来場のお客様方、ごゆっくりどうぞ…」
夏の選考で決まった三人のソリストがそれぞれ演って…それから合奏。
その後は交流会のようなものになっていて、くじ引きで負けたやつらがBGMの演奏を務める。
……という、十回目の説明を今受けている。
「バイオリンは星野、ピアノは風間、フルートは浜崎だ。星野は最後にしてやろうな、うん。俺は優しいだろう!」
「せんせえご配慮いたみいりますってバカ。んだよ! 俺あとでもいいぜ? 星野のあとでもイケるぜ?」
ピアノの風間といういかにもチャラい男が、付けた指輪をくるくる回しながら、俺をちらちら見ながら、そう言う。
「いやお前、星野のあとはきついって」
「そうだよやめとけって」
「そうよっ。ピアノの中で星野くんのあとにやっていいのは青木くんか轟くんだけよっ」
「そうよそうよ。なんであんたなのよ!」
どうも風間というやつは女子から不人気らしく、遠慮なしにずけずけとそう言葉が浴びせられる。
「せんせえ! 風間は調子が悪いそうなので、轟くんか青木くんに替えてください」
「俺んなこと言ってねぇよ!? バリバリ元気だぜ!?」
「ほら! 熱でおかしくなってます。替えてあげて!」
「いやそれはあれか? 俺が普段からおかしいとそう言いてぇのか!?」
そうじゃなくてそもそも毛嫌いされてるということに気づけ。
おかしいとかそれはたいした問題じゃないと思うが。