「……❤生きててよかった…」


突然抱きついてきたかと思うと、そんなわけの分からないことを呟く。

すり寄ってくる姿はまるで猫のようだった。


「かっくん~~! まおがんばった」


「あ、ああ…。頑張ったな。…で? さっきのはなんだ」


「さっきの? …ああ、暗黙の了解」


暗黙の了解?

なにが。


「本当ならこういう時は野木さんとかお兄ちゃんとか付き添いがいるから、お話もお断りも全部してくれるんだけど…いないから」


「……」


いや、すまん。

話が読めん。


「なんかねー、むかぁしむかし貴族だったからってえらい人扱いなんだよ。“触っちゃいけない”“喋っちゃいけない”って」


喋っちゃ……って。


「会話も、東西南北の東雲さまだったから許されるの。他は全部、人を通してだよ。通してくれる人がいないときにもう失礼しますっていうときは、あんな風にするの」


「……」


……ほんっとうに上流貴族だな…もはや。

ただの令嬢が会話まで制限されるかよ。


「めんっどくさいよねー貴族制度」


「だから制度じゃねぇだろ」


そりゃあ真裕の性格からして、偉そうにしてるのは性に合わないんだろうけど。

そういうもんなんなら仕方ないだろ。