――楓サイド――
会場に投げ込まれて数分。
あっという間に経営軍団に囲まれた。
音楽家軍団が近寄る隙もないほどに…。
「まあ! あなたが星野様? 真裕様の御婚約者だそうで。おめでとうございます」
「いえ…」
おめでたい……のか?
「結婚式はいつどこで開かれますの? 藤峰家ですから、それはもうご盛大でしょう」
「未定で…」
そもそも結婚というもの自体が未定だっつうのに。
「真裕様はどうなさっているのですか?」
「どうでしょう…」
…後ろにいるし。
「おや、君」
「…は?」
若い男の声。
向けられたのは俺ではなく……真裕?
どうやら俺の背後に隠れている真裕のようだった。
「その制服は……君も学生なのかい?」
宝院は高校を出たあとの専門学校だから制服はない。
でも、演奏会などといったこういう正式な場で着る、いわゆる正装のようなものはある。
それを見て言っているらしい。
「あの……はい」
戸惑いを露わにしながらも頷く真裕。