ひたすら首を傾げていると、パタパタとスリッパの音と共に、女の子の声が聞こえた。
「藤峰家も来るって本当!?」
「うそ! なにそれ?」
「さっきお金持ち達があそこで言ってたのよ。『今日は藤峰家のご令嬢真裕様がいらっしゃると聞いたから…』って!」
……。
うそ! なにそれ?
……ってこっちが言いたいわ。
なにそれ?
「……原因お前じゃねぇか」
「……」
え、じゃあなあに?
嘘だか本当だか分かんないようなその噂のせいで東西南北揃ってるっていうの?
いることはいるから嘘じゃないけど…でもなんか違うような…。
「…ねえ真緒、髪型なんとかしないとバレバレよ」
「……」
…そうですよね。
今あたしは、腰まである長い黒髪をそのままおろしている。
昔からずっとそうしていたから、顔をよく知ってる人が見たら一目瞭然だと思うんだよね。
だって実は、来るときに見知らぬ人に二度見された。
『え!? え、今の藤峰真裕…?』
『はあ? なに言ってんのよそんなわけないじゃない』
その会話を耳にした瞬間まーあドキッとして。
動揺し過ぎたあたしは、横断歩道の白いとこにつまずいた。
『うにゃあ!』
『Σ……お前ってマジでどうしようもねぇな』
『あ…違う違う。間違いだった。似てるだけね』
ふっ…。助かった。