「あーめんどくせぇ」


結局、ものすごーくしたくないけれど電話をすることにした。

真緒ではなく真裕の名前で言や喜んで承諾するだろ。

…それどころか帰ってくるなと言い出しそうだ。


『あ、もしもしかえくん? どしたのー珍しいね。明日こそは富士山が噴火するのかしら?』


「知らん。しばらく帰れなくなった」


『ええー? 今日から帰ってくるんじゃなかったの?』


「事情が変わったんだよ…」


『ていうかどこに身を隠してるのよ? まだ隠れるの?』


「隠してねぇ。隠れねぇ。真裕の世話」


隠してない…わけでもないか。

念のため一ヶ月も家を空けたらようやっとマスコミも諦めたようだったし。


『ま……ひ……ろ?』


「……」


ぴくっとこめかみがけいれんを起こしそうになった。

ヘンなスイッチ……押した気がする…。


『まひろ!? まひろってあなたまさか真裕ちゃんなの? いつの間にか婚約者になってたあの!?』


「……そう」


いつの間にか。

本っ当に、いつの間にか。


『きゃーっきゃーっやだやだやだちょっとどう…』


―パチン


…強制終了。…ってことで。