もちろん、一睡もしてない。
俺は、ベッドから降りてカーテンを開けて、体を伸ばした。
いつものコーヒーを淹れ、新聞を読む。
ザッと大雑把に見るが、大したことは書いてない。
俺はテーブルに新聞を投げ、フゥ、と一息ついて、コーヒーの入ってたティーカップを洗い、用意を始めた。
「翔様」
聞き慣れた声の方を振り向く。
短髪の黒い髪の毛に黒いスーツ。
昔からの俺の付き人、波留(ハル)が扉の前に立っていた。
「ご用意が完了しました」
「…勝手に俺の物に触るな。それに頼んだ覚えはない」
昔から付き人だからと言って、俺はもう大人だ。
付き人の手なんか借りなくても生きていける。