―――あたしは今日も、シルエ殿下に会いに来た。

毎日行かなくても良いんだけど、
なぜかシルエ殿下に会いたくなる。


「…殿下こんにちは。ベルです。」

「ベルか…。今日私はとても調子が良いんだ。」

今日の殿下は表情がいつもと比べて明るかった。

毎日あたしの力を殿下に使っているからかな。
夢幻の力は本当に、病気を治せるんだ…。


そんなことを考えていると、殿下が起き上がり、ベッドを降りた。

「でっ殿下!ダメですよ!お体が…」

いくら心の病とはいえ、体が衰弱していることは確か。

「案ずるな。これでも私は男だ。体力は無くなっていないさ。」

ふっ、と殿下はあたしに笑顔を向けた。
立ち上がったシルエ殿下は、思っていたより背が高かった。
太陽に照らされた姿が
とても綺麗に見えた。

「姉上は元気でやっているか?」

「サンドラ陛下ですか?ええ、お元気そうですよ。」

「…そうか。」

そう言うと、殿下は窓の外に目をやった。

しばらくサンマリアの街を見渡してから、あたしに話しかけた。


「ベル…。私は姉上と過ごした記憶が全くないんだ。」

「え…?それってどういう…」

殿下か言ったことが、よく分からなかった。

記憶が無い?

「私が心の病なのも、何が原因か私にはわからない。」

「殿下…。」

殿下は少し悲しげな表情をしていた。