「階段を上ってたら、風を感じたの」



『風?』



「そう…」





とってもあたたかくて優しい風。





「懐かしい…って思って、振り返ったんだけど…けど誰もいなかった」





そう―――。



懐かしいって。



確かにそう感じた。



それはきっと、私の愛しい人がいたから。





ねぇ、鏡夜―――。





「…鏡夜。あれは鏡夜だったんでしょ?」





私の瞳を真っすぐに見つめ返していた鏡夜の瞳が弧を描く。





『―――皐月』





柔らかい声で私の名を呼び、鏡夜は笑った。



それ以上鏡夜は何も言わない。



ただ、いつもよりずっとずっと、優しく笑うだけ。