「…やっと終わったな。これでしばらく静かだ」




司さんは はぁと息をはいた




「紅々…膝をかりていいか…横になりたいんだ」



「…え…あ、……あ…はい、」



軽く笑って司さんは私の膝に頭をのせ横になった




「……」




「…」




月明かりが部屋を照らしている


蓄音機からは甘ったるい洋楽が流れ続けている





ここだけ時間が止まったみたいに静か…







「二人しかいないみたいだ」



「…へ」



「世界でおれと紅々だけしかいないみたいだ。そんな事あるわけないのにな…そうだったらどんなにいいか…」







…世界で二人だけ。だったら



「司さん、」



目をつぶり司さんは言った





「…ただ一つ…母の名前を聞いた事があるんだ、酔った司郎様が寝言で何回も呼んでいた…」



「なんというお名前ですか?」




「…すず。字は涼しいの涼だ」



司さんは指に空中に字をかくように動かした



“涼”


「それが本当の名かは分からないけれどね。偽名かもしれないし…」




「…」



その名前も彼は心の中で何回も呼んだのかな




呼んでも応えてくれないとわかっているのに…





「…紅々…」