なぜなら先生は、あたしの知らない女の人と一緒に歩いていたから。



隣に居るのは、誰?

彼女?
違うかも、しれない。

友達かもしれない。
お姉さんか、妹かも。



考えすぎて、その場から動けなくなったあたしに気付いて、声をかけてきたのは、先生の方だった。




「松井か?どうした、こんな所で」


先生の隣の女の人が、不思議そうな顔をしている。


「あ、この子、俺のクラスの生徒だよ」


学校にいる時の表情とは違う、気の抜けたような顔で、先生はそう言った。


「先生、その人、誰?」


いつものスーツ姿じゃない先生になぜだか無性にイライラした。


「あぁ。彼女だよ、俺の。生徒に見られると、なんだか恥ずかしいな」


あたしは自分のことを、先生、と呼ばない先生を知らなかった。

こうして照れる先生も、

スーツじゃない先生も、

溶けるような顔の先生も、

全く、知らなかった。



なんだか自分がむなしくなって、泣けてきた。



「そうなんだ、じゃあ、あたし、急いでるから」

それだけ言って、その場から逃げた。



あたしは、先生のこと、何も知らなかった。