…陸久が通りすぎてから、気づいたんだ。
あたしが昨日、陸久に冷たい態度を取ったこと。
陸久の手を振り払ったこと。
全部、全部あたしのせいだ…。
ホントは陸久を追いかけて、母親と話してどう思ったのかとか聞きたかった。
…でも、できなかった。
聞いたところで、陸久があたしのことを知ったところであたしに振り向いてくれるとは思わなかったから。
心の奥にしまった、陸久への気持ち。
消そうと思っても、消えないよ…。
だって、知ったから。
初めて好きって気持ちを、知ったから。
一度好きになった気持ちを、消すことなんてできない。
消せないよ、陸久…。
だから、まだ陸久のこと想っててもいいかな?
想うだけなら、自由だよね。
あたしは消せない陸久への想いを抱えたまま、昼休みを終えた…。
──あれから1週間が経とうとしていた。
陸久とは何もない…。
たまに廊下ですれちがっても、目すら合わない。
これでよかったんだ。
…そう思うようにしたけど、あたしの目は常に陸久を追ってる。
ずっと、陸久のことを考えてる…。
「そういえば千春ちゃん、好きな人とはどうなったの!?」
「えっ…」
バイト中に優子さんが聞いてくる。
どうなったって…。
「…もう、ダメになっちゃった」
「ダメ?」
「うん。叶わない恋だから、諦めた」
でも、好きって気持ちが消せなくて…。
むしろ消そうとするほど、どんどん大きくなる気持ち。
「諦めるのは早いよ?」
「…優子さん」
いつも笑顔の優子さんが、今は真面目…。
「あたしは千春ちゃんの辛かったことも、苦しかったことも全部知ってる」
「……」
「あたしは、叶わないって決めつけて千春ちゃんの初恋が終わっちゃうのは嫌…」
「でも…」
「あたし、千春ちゃんに好きな人ができてうれしかったんだよ?」
「え…?」
優子さん、そんなこと思ってくれてたの?
「恋するとすっごい幸せになるから、千春ちゃんにもその幸せを感じてほしいって思ったんだ」
優子さん、ありがとう…。
あたし、陸久はモテるからあたしなんかが…ってずっと思ってた。
でも、優子さんが教えてくれた…。
「その人にちゃんと気持ち伝えなきゃ、何も始まらないよ?」
気持ち伝える、なんて考えたこともなかった…。
気持ち伝えたら、もう陸久と話せなくなりそうで。
でも、伝えるのと伝えないのなら絶対に伝えた方が後悔しない…。
「優子さん…あたし、頑張ってみる」
「応援してるからね!」
優子さんはいつもあたしを応援してくれて。
味方になってくれる…。
ホントに感謝でいっぱいなんだ。
「あの…」
「あ、いらっしゃいませ!」