すげぇ小さい声だったけど、確実に聞こえた…。
聞き間違えだと思いたいけど、思えなかった。
「千春…?」
「あ、何でもない!あたし、眠くなっちゃった」
「あぁ…じゃあ、もう寝るか」
「うん」
俺はベッドに、千春は今敷いたばかりの布団に入った。
「陸久、今日はありがとね。おやすみ」
「…おぅ」
千春の『おやすみ』を聞いて、部屋の電気を消した。
でも、眠りになんてつけるはずがなかった。
千春が小さな声で言った、さっきの言葉…。
『…あたしの母親も、あんなお母さんだったらよかったのに』
頭の中で何回もリピートされる。
千春がお袋と話して、どれだけ楽しかったのかこの言葉で分かった…。
目が慣れてきて、隣の布団で眠る千春の顔がうっすらと見える。
…俺は千春の力にはなれねぇのかな。
千春のかわいい寝顔を見ながら、俺はずっと考えてた…。
「ん…」
眩しい光で目が覚めた。
…ここはどこ?
見覚えのない天井だ…。
隣のベッドには、すやすやと眠る陸久の姿。
…そうだ。
あたし昨日泊まらせてもらったんだっけ…。
陸久のお母さん、すごいやさしかったんだ。
初めて会ったあたしに、ずっと笑顔で話してくれて思わずあたしも笑顔になっちゃって…。
陸久に顔似てるなって思ったりね?
やさしいところも、陸久に似てるなって感じた。
あたしはベッドで眠る陸久の顔を見ながら、人差し指で頬をつついてみる。
反応なし…。
寝顔までかっこいいなんて卑怯だ。
きっと、かわいい彼女とかいるんじゃない…?
ってあたし、何考えてんだろ…。
別に陸久に彼女がいたところで、あたしには関係ないこと。
…うん、関係ないんだよ。
ふと、枕元に置いてたケータイを開く。
…メールが1件と、不在着信。
「優子さんだ…」
メールは優子さんからだった。
昨日、バイトで会ったけど何かあったのかな?
あたしはメールを開いた。
『電話出なかったけど何かあった?
あったなら、何でも話してね♪
あたしは千春ちゃんの味方!』
…優子さん、ごめんね。
あたしが電話出なかったから…。
母親と何かあったのかもって心配してくれてたのかな。
あたしは『心配かけてごめんね』とメールを打って送信した。
不在着信も優子さんだった。
優子さんにはいつも心配かけちゃって、ホントに申し訳ないなって思った。
あたしはケータイを閉じて、陸久の部屋を出た。
「千春ちゃん、おはよ♪」
1階に行くと、朝ご飯を作ってる陸久のお母さん。
…朝に挨拶されるなんていつぶりだろう?
いや、初めてかもしれない。
こんな些細なことに、うれしさを感じてしまう…。
「おはようございます」