『ようやく桜が咲いたか…。
もうすぐ夏がやって来る。あの夏が…』


茜が住んでいる街には、緑がたくさんあり、どちらかと言うと、
下町の風情が残るこの街が、とても好きなのです。


仕事の関係上、引越しをした方が便利なのだが、この街が好きなので、
この街から離れない。


生まれた土地ではないが、この街での生活が長く、
茜にとってこの街こそがふるさと。


生涯、この街で生きると茜は決めている。


『私は何処へも行かない…。
この街で年を取り、この街で最後の時を迎える。
ずっと、私はここに居るからね』


ちょっとセンチになった所で、チャイムの音が聞こえた。


『はやーい!もう来たよ』


慌てて部屋の中に入り、ロックを開けた。