ぎし、ぎし、と不気味に木の床が鳴る。
その足音に、部屋の奥で聞こえる艶めかしい声がぴたりと止まったりするのが、唯一楽しかった。
そういうのご法度じゃなかったっけ。誰と誰なんだろう。と、新はいつも心の中でほくそ笑んでいた。
「ふすま開けたらどーなるんだろ」
新の一度はやってみたいこと、その1。
男女のお楽しみを、夜警にかこつけて邪魔すること。
…この男は本当に趣味が悪い。
「今日むしゃくしゃしてるしなー…やっちゃおっかなー」
口の中でひとりごとを呟く。その声は闇に呑まれて静かに消えた。
今度は足音をたてないように、そろり、そろりと新は歩く。
実は、目を付けている部屋があったのだ。それもずっと前から。
夜中通るたびに、呻くような喘ぐような、苦しそうな声が聞こえる部屋。
警備の足音を聞くと、その声はぴたりと止まる。
一体どんなことをしているのかと、すごく気になっていた。
「どうかされましたか?」
新は面白がって、一度だけそう呼びかけたことがあるが、もちろん返事はなかった。
城の上階。
その廊下の突き当たり。一番、奥の部屋。