「そんな大金あるわけねえだろ!」

 ニシヤンが唾を吐き捨てるように荒々しく言った。

 その大きな声に驚き、美枝子も段ボールハウスから顔を出してきた。

状況を把握しきれないでいる美枝子に、シローが近づいて行きそっと耳打ちをした。

「一応、完成予定は一か月後なので、それまでに二万二千円揃えて頂ければ結構です。

早い者勝ちですので、なるべく早めに正確な人数を区役所の方へ連絡下さい」

 竹中はもう一度、何人かの顔を見渡すと、「失礼します」と声を掛けて帰って行った。

一か月後という約束を残して……。


 いきなり降って湧いたような話に皆、顔を見合わせどうすれば良いものか、と腕組みをしながら考え込んでいた。


 確かにーーーあの男が言う事にも一理あった。

段ボールハウスでの冬場はかなり厳しいものがあり、現に二年前の冬には仲間の一人が体調不良と凍傷が重なり死亡していた。

結局、その遺体は新宿区役所の方で埋葬してくれた。

そういった経緯もあり、今回の低所得者の保護という事になったのかもしれない……。