美枝子の肩を抱き寄せ、体温の消えた細い体の隅々に目を配った。

抜け始めている黒い髪を優しく撫でていると、指先にオレンジ色の閃光が広がっているのに気付いた。

シローは遠くの安達太良山に視線を向けてみた。

流れる雲の合間と安達太良山の峰が重なり合い、太陽が沈みかけながら空と大地を赤く染め上げている。

夕焼けだ……。

それは、今まさに燃え上がっているかのように眼球の奥底を焦がした。

゛美枝子……。見えるかい……。゛

 シローは美枝子の横顔を、そっと覗き込んだ。

゛懐かしいだろ?安達太良山の夕日だ……。゛

 彼女の頬を照らす夕日を、じっと見つけた。

『ありがとう……。シローちゃん……。』

 美枝子がそう呟いているように思えた。

 ここまで来て良かったんだ。

もし、あのまま隅田川の河原で焼いてしまっていたならば、俺達はただの都会の片隅で愚弄されたままの野良犬に過ぎない。

きっと、ここなら安らかに眠る事が出来るであろう……。

人々を見下ろしながら……。

 暫くするとシローは立ち上がり、杉林の中に雪に埋もれながら入って行った。

ふと、後ろを振り向くと、寄りどころを無くした美枝子の体は真横に倒れ込みながら夕日に照らされていた。

゛美枝子……。ちょっと待っててくれ……。゛

 シローは更に、林の奥へと潜り込んで行った。