どこまでも続く坂道は、高く高く伸びていた。

シローは奥歯を噛みしめ、道の先を確かめるように、リヤカーを引いて歩き出そうとした。

瞬間であった……。

あれほど激しい雪を降らせていた灰色の雲の切れ間から、太陽の光が道の先の小高い丘を照らし出した。

また、その丘に聳え立つ大きな杉木からも、空に向かって光の円錐を浴びせているかのようにも見えた。

゛あそこかもしれない!゛

 シローの胸は高鳴り、リヤカーを捨て去ると、ロープをほどいて美枝子を背負いながら、坂道を駆け上がった。

膝まで埋まる雪を跨ぎ、急斜面を手で掻き分け美枝子を運んだ。

不自由な片足を引きずりながらも、その時感じていたものは無我の境地であった。

きっと、美枝子が力を貸してくれていたのに違いない……。

やがて丘の上までたどり着き、光の雫のしたに美枝子と共にシローは横たわった。

丘の上から眼下を見下ろしてみると、家々の煙突から立ち上がった白い煙りが、白銀の田園風景の中に何本もの角を立てているように見えた。

シローは美枝子を背中から降ろし、横にちょこんと座らせ、膝を抱えながら夕暮れが訪れるのを待った。

 この世には自分達以外存在しないのでないか……。

そう思えるほど、最期の時は静けさの中に包まれていた。