リヤカーのタイヤが地面に積もった雪を捉える音……。音……。

そして、時折やってくる風の音だけが、現実の世界である事を伺わせていた。

 少しづつ雪も小降りになり、午後のサイレンが鳴り響く頃、岩代町に辿り着いた。

シローは一旦リヤカーを停め、悴んだ手を息を吐きながら暖めると、周りを見渡してみた。

゛美枝子が言っていた丘とは、一体何処だろう……。゛

 顔を上げ、霧に隠れる山間を探した。

山肌に風で白い雪と霧が揺れている、まるで水墨画の絵柄だった。

シローはあてもなく歩き出した。


子供の頃、何度か訪れたことのある町だが、なにぶんこの雪のせいで記憶の濁りは取り除けそうになかった。

乏しい足取りはやがて、道沿いのタバコ屋の前を通りかかった。

その看板には、『小浜商店』と掲げてある。

゛そういえば、美枝子は小浜という地名を言っていた……。゛

急いでタバコ屋の軒先までリヤカーを引いて行くと、左手に延びる坂道を見つけた。