武雄は起き上がり、シローの手を引くと、

「少し心配で、タイヤの後を就けて来ただけだ。

もう大丈夫だろう。

早く行け!」

 息を切らしたまま促した。

「志郎さん、ほら!」

 雅代は、シローの背中に着いた雪を払ってくれていた。

正気を取り戻し、上着の袖で顔を隠しながら、両手で武雄の手を握りしめていた。

「春になったら、父ちゃんと母ちゃんの墓参りに行くぞ。

また、帰って来い」

 武雄の言葉は、どんな暖かい毛布などよりも、優しくシローの心を包み込んでいった。

 二人に深々と頭を下げ、まつげに振り下りる雪を軍手で掻きながら、シローは再びリヤカーを引いて歩き出した。

振り返る事はしなかった。

もし、もう一度二人の顔を見てしまったら、この決心がゆらいでしまいそうだったから……。

 その場所から武雄と雅代は寒さに腕を組みながら、雪の中に消えてゆくシルエットを、ずっと見送っていた。