「おい!志郎!しっかりしろ!」

 リヤカーの荷台が急に浮かび上がったと思った瞬間、道路側に人影が現れた。

「志郎さん!」

 シローはぼやけた意識の中で、その声を手繰った。

二・三回横に大きくかぶりを振り、たたみかける吹雪の合間に目を凝らした。

゛あんちゃん……。雅代姉さん……。゛

 武雄は頭からタオルを頬被りしながら、必死に荷台を押していた。

雅代の方は、スコップで雪に埋もれたタイヤの周りを掘ってくれていた。

「なんで、ここに……。」

 シローの薄く開いた口元から、微かに声音が響いた。

「志郎……!」

 武雄達の体にも、うっすらと雪が積もり始めていた。

二人は何度も声を掛け合い、やっとの思いで崖っぷちからリヤカーを引き上げてくれた。

歩道と車道の境目にリヤカーを運び、地面に積もった雪の上に倒れ込んだ。

三人共、それぞれ肩で息をしていた。

「どうもない……。」

 シローは状態を上向きにしながら、途切れ途切れに言葉を発した。